
日本体育大学はスポーツ庁の委託を受けて、ナショナルチームクラスで活躍を目指す女性コーチを対象に、ハイパフォーマンス領域で強みとなるコーチングスキルの向上を目指して「女性エリートコーチ育成プログラム」を提供しています。ナショナルチームクラスのコーチは国際的な場で活躍することが求められるため、本プログラム受講者を対象に、諸外国で女性コーチ普及活動の最前線で活躍する人物や女性エリートコーチのロールモデルとなる人物に出会う機会をつくり、国際的なネットワークづくりと国際人としての意識を醸成することを目指して、海外研修を行いました。
今回はコロナウイルスの影響で海外渡航が厳しかったため、海外研修の代替として、国際座談会を以下概要でオンラインにて実施しました。
■日時:2021年2月16.~18日、3月2日の4日間
■全体日程を通してのテーマ:
各日程でさまざまなコーチにより紹介されるグローバルムーブメント・グローバルトレンドを通じて、諸外国の事例から学ぶ女性コーチのキャリア形成について考えます。
■講師:
1日目 2月16日(火)10:00~11:30
講師 ポーリーン・ハリソン氏(ニュージーランド)ICCE Women in Coachingプロジェクトリーダー
2日目: 2月17日(水)10:00~11:30
講師
・ダイアン・カルヴァー氏(カナダ) オタワ大学 准教授
・ペニー・ワースナー氏(カナダ)カルガリー大学体育学部学部長、元陸上競技オリンピアン
・クリスティン・ビグス氏(カナダ) カルガリー大学女子バレーボール監督、カナダ・シッティングバレーボール チームコーチ
3日目:2月18日(木) 10:00~11:30
講師
・ナディーン・デュビナ氏(アメリカ)アメリカオリンピック・パラリンピック委員会、コーチ育成マネー ジャー
・伊奈恭子氏(アメリカ)フィギュアスケートコーチ、元オリンピアン、世界大会銅メダリスト
4日目:3月2日(火)9:30~11:30
講師
・ミッシェル・デ・ハイデン氏(オーストラリア)Gymnastics Australia
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■1日目アジェンダ
1.ハリソン氏より問題提起:世界的なスポーツ実践現場が男性中心の世界であることの現状と
「なぜ世界のコーチングのリーダーシップのポジションに女性を増やしていくことが大事なのか」
2.【ディスカッション①】上記テーマについて2グループに分かれてディスカッション
3. 【ディスカッショ②】なぜ、女性コーチの普及がゆるやかなのか
4.【事例紹介】世界で行われている女性コーチ育成支援事例
5.【ディスカッション③】各プログラムの重要なポイント/ 自分たちのプログラムとの共通点・類似点
6.まとめ
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世界的なスポーツ実践現場が男性中心の世界であることの現状と問題について考える
ハリソン氏より、ICCE(国際コーチングエクセレンス評議会)で10年にわたり、女性コーチ普及に向けて活動してきた内容と、活動を通してみえてきた、スポーツ実践現場は男性中心の社会であること、男性優位の中で仕事をしなくてはいけないこと、その中で女性が働きやすい環境を作る必要があることの問題提起からスタート。
2グループに分かれて女性コーチを考える必要や、女性コーチを登用する必要について、ディスカッションし、以下のような意見が飛びかいました。
・そもそも女性コーチ・トレーナーが少ないという現状
・女性には女性特有の洞察力や共感力があり、男性コーチとは異なるアプローチで指導ができることの良さ
・コーチングが多様であることのアスリートにとってのメリット
なぜ女性コーチの普及が遅いのか?
女性コーチ普及が遅い理由について、ディスカッション形式で考えました。
「女性コーチには十分な投資や機会の提供がないのでは」という現状への意見もでつつ、どのようにシステムを変えれば状況が好転するのかを「投資」「機会」「女性ネットワーク」の点から考えていく必要があることを、話し合いました。
【事例紹介】世界で行われている女性コーチ育成支援事例
続いてハリソン氏より、以下4つの世界の女性ハイパフォーマンスコーチ支援、および育成に対する取り組みについての事例紹介がありました。これらの「女性エリートコーチ育成プログラム」の世界版の事例を通じて、各プログラムに共通している重要な要素と、本プログラムとの共通点・類似点が何かを考えながら聞きました。
紹介事例1. NCAA WOMEN COACHES ACADEMY(USA)

大学生が対象のアカデミーで、アカデミーの目的は、女性コーチがキャリアを前進するために力とインスピレーションを与え、リーダーシップポジションが空いた時に自信をもって手を挙げてリーダーシップが発揮できる力を身につけることを目的にしている。
また競技の種目の垣根を越えて、スポーツ界の女性同士のネットワークをつくり女性同士をつなぎコミュニティーをつくることも目的と掲げられている。
紹介事例2. RFU the female coach leadership(イギリス)

女性コーチのハイパフォーマンスコーチとしてのパスウェイを特定し、歩んでいけるよう支援する事業。
単なる育成プログラムだけではなく、ラグビー協会の中でコーチ向けに提供されているいろいろなプログラムが一元化されていて、プログラムに参加している女性が受けられる支援が一括化されている。
紹介事例3:Commonwealth games (イギリス)

女性コーチのインターンシッププログラム。2018年の大会の際は、20名の女性コーチがインターンシッププログラムでゴールドコーストに派遣され、選手とともに衣食住をし、メンターとともにコーチングの実践の場とし、ワークショップを実施した(写真)。
紹介事例4: te hapaitanga elevating , lifting and empowering(ニュージーランド)

18か月にわたるプログラム。参加者はメンターとともに学べ、助成金を活用してコーチングの実践経験やサポートネットワークへアクセスすることができる。各協会のコーチ候補者が参加している。
各プログラムの重要なポイント・自分たちのプログラムとの共通点・類似点
話し合いを通して、先のプログラムでは以下の共通点があることを確認
女性コーチを個人として認め、評価し、強みを伸ばしていく支援をしていること
各プログラムとも自信をつけることが中心であること
安全・安心して意見交換ができるコミュニティ形成(まざまなスキルレベルの同業者が集まり、お互いの実践力を、相互作用を通して高め合っていくコミュニティーのことをいう)を目指していること
そして、女性コーチとして経験を積む中で、女性コミュニティーやメンターから自信を得るなどして、女性エリートコーチとしてのイメージをもっていくこと、そうして能力を高めながら男性がいる組織で意見できるトレーニングを積むことが重要になると確認しました。
女性が中心の実践コミュニティを形成することが重要と確認して終了
1日目のまとめはハリソン氏と共に、世界のプログラムの目的や、女性中心の実践コミュニティ形成することがプログラムで重要だということを全員で確認。
女性の学びの機会が少ない現実や、各競技団体や組織等との連携を強めて協力体制を強化していきたい改善点などもあがり、改めて本プログラムの充実した内容に納得しながら、このようなプログラムへ参加する機会が増えていくことに期待する声が上がりました。