本学が今年度からスポーツ庁から受託した「女性アスリートの育成・支援プロジェクト『女性エリートコーチ育成プログラム』」の第4回研修会が、2020年2月1日〜2月5日に行われました。

第4回研修会は、以下のゴールを目指して実施しました。
【第4回研修会の全体ゴール】
● 本研修から新たに参加したメンバー(藤岡さん)への理解を深め、心理的な安全を感じられている
● 自身が抱える課題(提供した話題)の解決に向けて、いくつかのオプションを持てている
● エリートコーチが身につけるべき資質能力を6つの職務および各職務を構成する要素から整理し、各要素に対する2年間のプログラム終了時点の到達目標が明確になっている
● Tell, sell, ask, delegateの4つのアプローチの違いを理解し、自身が得意な方法、今後意識的に伸ばしていくべきアプローチを特定できている
● クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの違い、さらにはオープンクエスチョンの上位、下位の質問を理解し、自分が多用している内容(癖)に気付くとともに、今後練習すべき内容が明確になっている
● 自身が指導で活用できそうなスポーツ医・科学的データまたはツールを一つは見つけられている
● 次回OJTでデータを取得、活用する準備ができている
● 今後新たに自身のコーチング実践で活用するデータの活用方法が決定し、プレゼンすることができる
● 指定のシチュエーションに沿ったデータ活用計画のプレゼンを作成し、自身の設定する留意点に沿ったプレゼンテーションができる
● プレゼンテーションスキルに関する自身の強みと弱みを理解し、改善に向けた具体的な行動が決まっている
【スケジュール】 1日目:OJT実践報告(ケースクリニック)
2日目:エリートコーチに必要な資質能力をまとめよう 3日目:相手に合わせたコーチングスタイルを選択する
4日目:スポーツ医・科学を活用しよう
5日目:プレゼンテーション実践
◆研修第1日目「OJT実践報告(ケースクリニック)」について
1日目はOJT実践報告を行いながら、コミュニティ・オブ・プラクティスの活用方法、ファシリテーションスキルを学んでいきます。
具体的な目標は以下です。
● 自身の課題に関連したベストプラクティスに理解を深め、課題対処に向けた具体的な取り組みが決まっている
● 本研修から新たに参加するメンバー(藤岡さん)への理解を深め、全員が心理的な安全を感じられている
OJT実践報告は、参加者がOJT実践で生じたり、またはOJTで取り組んだが未解決の課題について話題を提供し、それをグループで考えます。他の人の知恵や経験を出し合うことで、新たな解決策が生まれるきっかけをつくったり、学び合う機会を作ったりすることが狙いです。
各グループでは、目標設定について、短期目標である試合などと、その先の競技人生をどうしていくかの長期目標も考えるとよいなどの話や、コロナで現場で指導しずらい状況の中で、今だからできることや家でもパフォーマンスを高める取り組みなど、さまざまなアイデアを出し合い話が弾みました。
参加者同士、お互いのリアルな体験が聞けてとても勉強になったという感想が多く聞かれました。
◆研修第2日目「エリートコーチに必要な資質能力をまとめよう」について
2日目は、本エリートコーチ養成プログラムが規定している「エリートコーチが身につけるべき資質能力の6つの職務(※)」それぞれに対し、どのような構成要素が含まれるかを整理し、各要素に対する2年間のプログラム終了時点の到達目標を設定することをゴールにしています。
※エリートコーチが身につけるべき資質能力の6つの職務とは、ビジョンと戦略の設定、環境の整備、人間関係の構築、練習の実施と試合への準備、現場の理解と対応、学習と内省のことを言います。
3人1組のグループを作り、以下のステップでワークショップ形式で整理。エリートコーチを目指していく集団として、共通の到達目標を設定し、同時に参加者自身の現状を評価し、成長課題を明確にするためのガイドとすることも狙っています。
【ステップ】
3人1組でグループを作り、以下を実施し、最後に全体に分析した職務の内容を説明します。
1. 予め割り当てられた職務の概要を確認
2. 3ラウンドで、「ビジョンと戦略の設定・環境の整備」「現場の理解と対応」「学習と内省」「人間関係の構築」「練習の実施と試合への準備」について、職務の中に含まれる構成要素を分析する
例:「人間関係の構築について」の場合、人間関係・ネットワークの構築、コーチ・アスリート関係、コミュニケーショ ンスキル、プレゼンスキルなどと、構成要素を分析していく
3. 全体へむけて、各グループで分析した職務の内容を3分以内で説明
◆研修第3日目「相手に合わせたコーチングスタイルを選択する」について
3日目のゴールは以下です。
● Tell, Sell, Ask, Delegateの4つのアプローチの違いを理解し、自身が得意な方法、今後意識的に伸ばしていくべきアプローチを特定できるようにする
● クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの違い、さらにはオープンクエスチョンの上位、下位の質問を理解し、自分が多用している内容(癖)に気付くとともに、今後練習すべき内容を明確にする
1部目は、グループに分かれ、マイクロコーチング、プロフェッショナル・ディスカッションワークを行いながらマイクロコーチングの4つのアプローチの違いを理解し、使い分けることを学びました。
マイクロコーチングとは、心理的に安全な環境の中で新しいコーチングスキルを練習するメソッドです。
コー チ同士で、コーチ役、アスリート役、観察者役などを設定し、練習したいコーチングスキルを何度でも練習する ことができ、コーチ同士でよかった点や改善できる点などを指摘し合えるため、関わるコーチ全員が実践的な学 びを得ることができます。
プロフェッショナル・ディスカッションとは、コーチとしてのスキルアップを図るために、コーチ同士やコー チデベロッパーらと行う、専門家としてのディスカッションのことです。人間は経験を通して学ぶと言われます が、経験だけでは十分ではなく、経験に対してしっかりと省察(振り返り、評価、改善策立案、行動計画立案) をしていくことが必要です。
これらのマイクロコーチングとプロフェッショナル・ディスカッションを組み合わせて用いることで、実効性あるコー チングスキルの向上が期待できます。
グループでは、コーチ役、プレーヤー役、観察者役を設け、コーチがプレイヤーへコーチングを実践することを観察者は観察し、マイクロコーチング内に起こったことをメモ。それをプロフェッショナル・ディスカッションの際に質問します。観察者は質問をすることで、コーチ役の人が次に取り組むことを自分でできるようにファシリテートしていき、振り返りを行っていくやりかたをしました。
次に2部では、マイクロコーチングの4つの4アプローチの中の1つ「Ask」に焦点を当てて、質問のしかたを学んでいきます。
2部のAskに焦点をあてた質問については、Jamboardを使い、マイクロコーチングの中で発せられた質問について、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンを分けて理解を深めました。


◆研修4日目「 スポーツ医・科学を活用しよう」について
4日目のゴールは、以下の通りです。
● コーチングの実践において、アスリートのパフォーマンス向上をサポートするデータの種類や活用方法に理解を深 める
● 上記を通じて、自身が指導で活用できそうなスポーツ医・科学的データまたはツールを一つは見つける
● 次回OJTでデータを取得、活用する準備ができている
ゴールに向けて、以下に取り組みました。
1. アスリートのパフォーマンス向上をサポートするデータリストの作成
2. 現場でのデータ活用例
1のデータリスト作成については、グループ内で、事前課題を通じて知ったデータやすでに知っていたデータの活用方法、自身が普段活用している データの情報などを共有。
「コンディショニング」「ゲーム分析」「動作分析」「生理学」「栄養」などで使っているデータやツールを共有し、データのとり方や運用方法について共有していきました。
2の現場でのデータ活用例については、ユーフォリアの折笠様をお招きして、活用例について質疑応答を行いました。
◆研修5日目「 プレゼンテーション実践」について
今回は、指定のシチュエーションに沿い、スポーツ医・科学に基づくデータを活用した計画をプレゼンテーションする資料を作成し、自身の設定する留意点に沿ったプレゼンテーションができるようになることを目指しました。
プレゼンテーションの準備では以下のポイントを意識。
● 「監督が選手たちとのミーティングで今後取り入れていくスポーツ医・科学に基づくデータまたはツールの活用について説明する」というシチュエーションで
● 選手たちが自分にも必要だと思う、納得できるような説明をするために、以下を意識
● どんなデータか
● 測定方法は何か
● どのような成果につながるか
制限時間は1人あたり5分。第1回・3回の研修会でまとめた効果的なプレゼンチェックポイントをもとに、プレゼンスキルに関するパーソナルゴールを設定。
プレゼンテーションの際は、参加者からデータ活用計画の内容について良かった点や改善点を、
またプレゼン方法や資料の精度についても、よかった点や改善点の意見をもらい、今後のプレゼンテーションスキルのアップに生かすことができました。
~ふりかえり~
この会が令和2年度内、最後の研修会となりました。
グループごとに、以下のようなスライドも見ながら、これまでの1年間の研修の振り返りを行いました。

振り返りでは、以下のような声が聞かれ、次の1年の自分の成長を楽しみにする様子がうかがえました。
プレゼンテーションの実践
最初は視覚的な情報がなく言葉だけでプレゼンをしたことからスタートし、改善できるようになり学び続けていきたいこと
研修前には相手は変えられなくて自分が変わる必要があると思っていたが、自分のコミュニケーションの仕方を変えることで、相手の行動が変わることが起きた。研修で得た大きな経験である。
このコミュニティーについて
強化計画のチェックリストやパフォーマンス特性要因は、自分ひとりだと行き詰まるが、グループワークで知見を出し合い検討できたことで、現場ですぐに生かせる知識を学ぶことができた。
同じ女性で同じゴールに向かって学ぶコミュニティがあることの凄さを実感した。
コミュニティーには、現役もコーチもいる。スポーツ全般を考えたり女性特有のことを感じたりと、いろいろな参加者がいることでいろいろな視点が得られた中で、いろいろな視点を得られることで同じ要因が強みにもなるし弱みにもなることも感じることができた。
その他
プログラムを受講して、自分自身が使命感を持つようになると同時に、周囲も変化が見られた。
SWOT分析を学んだことで、要因や強みや弱みなどの分析をして行動を導き出し、頭の中と行動を整理することができた。行動が整理できると状況が変わることを学んだ。
自分自身を表現していくことが大切だとわかり、組織や選手、家族とのかかわり方において自分に変化を感じた。
最後に講師の伊藤から、今回学んだことをどのように周囲に影響を与えてムーブメントを作っていくか、参加者全員で、女性エリートコーチとしての今後のアクションについて、高い意識を持っていくことを確認しました。